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  「千曲川通信」#**     2000/**/**(毎月曜発行)

 ”信濃なる千曲の川の細石(さざれいし)も 君し踏みてば 玉と
 拾はむ”(万葉集)

 みすずかる信濃は、千曲川河畔から発信、なつかしきたべもの
たち、野の花と果実、石仏、風、植物誌、モーアルト、ベートーベン
歴史散歩とルポ、そしてモノローグ.. ノスタルジーとロマンと安ら
ぎと..。
 心から心へのエッセイメールマガジンをめざします。
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 「郷愁の食物誌」より  サクマ(式)ドロップスの秘密

 映画アニメ「火垂る(ほたる)の墓」(畑野勲監督、野坂昭如原作)
の中で冒頭から全編に印象的にてくるが、サクマ式ドロップスであ
る。缶のサクマ式の綴りが、右から左となっているのが戦争前の描
写らしい。 映画は見るに悲しすぎる物語だが、兄の清太が、 妹の
節子にそのドロップを与えるところなど、ほほえましいシ−ンである。
 職場のハイミスのSさん。お茶の時間、もらいもののお菓子もなく
口さみしい時、自分で買ってきてあるサクマドロップの缶を引出しか
ら取り出す。みんなでなめてくれというわけだ。
 サクマ式ドロップス、懐かしいお菓子、飴玉である。 缶の中の飴
をカランコランさせて、 レモン味にオレンジ味やらハッカ味やら、と
りどりの味を楽しんだ年代もいるのではないだろうか。
  ところで彼女が買って来て、 時折りお茶のテーブルに乗るのはミ
ドリ色の缶で「サクマドロップス」となっている。確か、 昔はサクマ式
ドロップスとなっていた筈。  いつのまにやら”式”なんて古臭いとい
うわけか、またなんらかの事情でとれてしまったのだろうと思ってい
た。
 ところがである。この食物誌を書いていることもあって、本屋でも参
考になる本はないかと物色することがあるが、 この前買ってきた「お
菓子帖」(綱島理友著・朝日文庫)という本を見て、ヤヤァ−−と思っ
た。
 結論から先にいえば、サクマ式ドロップスとサクマドロップスは別物
で、両方ともあるというのである。サクマ式ドロップスは佐久間製菓と
いう会社が作り、 片やサクマドロップスはサクマ製菓という会社が作
っているというのだ。
 缶の色もサクマ式の方は赤色、 式のないサクマの方はミドリ色。
サクマ式の方には最高級と登録商標という文字も。またサクマドロッ
プスには高級という文字のみ。また佐久間製菓は池袋に、サクマ製
菓の方は恵比須。
  「お菓子帖」の作者の綱島さんは、ひょんなことから美人女性編集
者と、このサクマのドロップスの缶の色は赤かミドリかで電話でのや
りとりというか口論になり、 このドロップスの秘密を探ることになった
というわけである。 
 綱島さんが、その二つの会社を取材などしてわかったのはこうであ
る。二つの会社は戦前は一つの会社。サクマ製菓だった。 戦争が激
しくなり砂糖の供給も止まり、 のどかなドロップなんて戦争に何の役
にも立ちそうないものを作っている会社は解散せざる得なかった。 
 戦後、会社再建。ところが気がついたら全国にサクマ製菓を名乗
る会社が五つ位出来ていたということだ。が、自然淘汰されて今のニ
社が残り、当然のように訴訟で争いに。 結局、裁判の結果、池袋の
会社がサクマ式の登録商標を獲り、 恵比須の会社に元の会社名の
サクマ製菓の表記が認められた。
 菓子の業界では、この二つのドロップ缶のことを赤缶、青缶とよん
だそうだ。だが時代がたって、今では業界の中の人でも、この二つの
ドロップが、別の会社で製造されていることを知らない人も多いのだ
という。
 またわかったことは、 恵比須のサクマ製菓は戦前の社長の息子が
起こした会社、池袋の佐久間製菓は番頭が作った会社という。
 なお、サクマ式ドロップスというのは、明治41年東京の佐久間惣
次郎商店から発売されたドロップ。 それまでのよどんだ色、品質の
悪い、夏になると溶けだすやっかいな点をすべて改良し、夏になっ
ても溶けず、酸味料を入れることによて透明感のある今のようなド
ロップを作り上げた。これを世間ではドロップのサクマ式製法と呼ん
だという。
 私のいる長野では緑のサクマドロップスばかりで、式の入っている
赤缶の方は見たことがない。ミドリ缶の方の勢力圏なのかもしれな
い。
                              UNCLE  TELL
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 スタジオジブリのアニメ「火垂(ほたる)の墓」を見てみようと思った
のは、Sさんの−− アニメの「火垂(ほたる)の墓」の中にサクマドロ
ップが出てくるよ−−のひとこと。 そのアニメを再び見直してみて、
この稿が書けたのだから、 私はSさんに感謝しなければならないか
もしれない。
  Kビルでは一緒の職場だったSさん、 今は同じこのS町のビルだ
が、別の階で元気に働いている。この稿を彼女にも見せてある。うふ
、っと笑っていた。
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