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アンクルのクラシック夜話60 2001/11/01(毎月1・15日発行)
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クラシックの音楽家や作品のエピソードを中心に読みものとしても
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ベートーベンと女性達5 ファンニー・ジャンナタ・デル・リオ(2)
ベートーベンがこの1816年頃、甥カールの寄宿舎学校の校長ジャンタ・
デル・リオとその二人の娘と交わした気のおけない会話の中に、後世問題とな
っ<不滅の恋人>についての貴重なキーワードが隠されているというのである。
上の娘のファンニーがその日記にが書き留めているなかから、重要な場面の
一つを、青木やよいさんの著作「遥かなる恋人に」(ベートーベン・愛の奇
跡/筑摩書房刊・1991)から紹介してみよう。
−−1816年の秋、ベートーベンは、夏からずっと滞在していた避暑地の
バーデンにジャンナタ・デル・リオの一家を招待したことがあった。そこはウ
イーンから馬車で一時間あまりのところで、美しい自然に囲まれた小さな村だ
った。
滞在は1泊2日に過ぎなかったが、はじめてこの大芸術家と起居をともにす
るという体験は、若い娘たちの好奇心をいやが上にも刺激するのだった。
着いた当日の9月11日、彼らは連れ立って散歩している。ベートーベンは
自分が気に入っているバーデンに彼らに案内するつもりだったのだろう。
森に通じる道々で、耳の遠いベートーベンはジャンナタ・デル・リオと大声
で話し合った。
彼の難聴による悲劇的な状況を解決するには、「しっかりした愛する女性」
と結婚するのが一番いい、という話しになったらしい。そういった女性が「誰
かいらっしゃらないのですか」とジャンナタ・デル・リオが尋ねる。この会話
に全神経を集中していたファンニーにとっては、この上ない緊張の一瞬だった。
しかしベートーベンの答えは、彼を恋する娘には残酷なものだった。
ファンニーは日記に書いている。−−「彼は愛において不幸だったのだ!そ
の人と結ばれたら生涯の最良の幸せと思える人と5年前から知り会っている。
だがそれは考えられないことであり、ほとんど不可能なキメラのようなものだ。
と彼は語ったのだ。(註:キメラ ギリシャ神話にあるライオンの頭羊の体、蛇
の尾をもつ怪物)」しかも「にもかかわらず、その思いは今もはじめての日の
ようです。私はそれを心情から追い出すことは出来ない」とベート−ベンは付
け加えたのだというのだ。
さらにその夜ファンニーは、泊めてもらったベートーベンの仕事場で、机の
上にあった紙片を見つけた。そこには、−−「わたしの心は美しい自然を見る
とわきたつ。彼女がいないにもかかわらず!」ここにいない”彼女”とは誰な
のだろうか。ベートーベンはその女性を「5年前から」愛しているというのだ
。逆算すれば それは1811年からとなる。
つまり、ベートーベンの<不滅の恋人>は、決して突然現れた未知の女性で
はなく、われわれがこれまでに見てきた女性の中にいるはずなのだ。だがその
後、ファンニーとナンニーが何度かアタックしたにもかかわらず、その人が誰
なのかはもちろん、どんな性格の人かさえも聞き出すことは出来なかった。た
だ、彼は「ハーモニーはまだ見つかっていない」と、謎のようなことばをファ
ンニーの耳に残している。
ファンニー、 ナンニーの姉妹はこうしたベートーベンとのかかわりで後の
世の人々に知られることになったが、彼女の記録・メモ、それだけでも後世の
研究者にとってかけがえのない証言となった。 (つづく)
UNCLE TELL
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「アンクルのクラシック夜話」バックナンバータイトル
・#60・ベートーベンと女性達5 ファンニー・ジャンナタ・デル・リオ(2)
・#59・ベートーベンと女性達5 ファンニー・ジャンナタ・デル・リオ(1)
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・#57・”つべこべいわずにベートーベン”その4
「モーツアルトの時代とベートーベンの時代2」
・#56・”つべこべいわずにベートーベン”その3
「モーツアルトの時代とベートーベンの時代1」
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「ベートーベンは、長男?」
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「ベートーベンは、長男?」
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・#52・夭折の天才・アリアーガの弦楽四重奏曲3曲
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・#50・ベ−ト−ベンと女性達3 ”出来れば唇にキスを.....”
・#49・チャイコフスキーとフォン・メック夫人の愛と友情と挫折(3)
・#48・チャイコフスキーとフォン・メック夫人の愛と友情と挫折(2)
・#47・チャイコフスキーとフォン・メック夫人の愛と友情と挫折(1)
・#46・ベートーベンの死と追悼ミサ・ケルビーニ
・#45・作家の愛したクラシック
・#44・モーツアルトの死とベートーベンの死
・#43・無人島へ持っていくCD5枚
・#42・コンチネンタルタンゴを聴きませんか?
・#41・音楽室の作曲家たち
・#40・ベートーベン チェロソナタ第3番イ長調 作品69
・#39・ベルリオーズのレクイエム
・#38・春の祭典
・#37・シューベルトはキノコちゃん?
・#36・乱雑・不潔の極め付き天才、ベートーベン
・#35・不器用の天才 ベートーベン
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・#33・ベートーベンと女性たち2
ベートーベン、行きずりの恋?
・#32・もうひとつのクロイツエル・ソナタ
・#31・ハイドンの頭蓋骨の長き放浪
・#30・クロード・ドビュッシーの女性遍歴(3)
・#29・クロード・ドビュッシーの女性遍歴(2)
・#28・クロード・ドビュッシーの女性遍歴(1)
・#27・モーツアルト毒殺(?)の新犯人(?)(3)
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・#25・モーツアルト毒殺(?)の新犯人(?)(1)
・#24・ベートーベンと女性たち1
マリー・エルデーディ伯爵夫人の場合
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・#11・他人の奥さんを散歩に誘ったベートーベン
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・#09・鼻ぺちゃ先生とシューベルト
・#08・ベートーベンの筆談帳より
・#07・ベートーベンの「不滅の恋人への手紙」より(3)
・#06・ベートーベンの「不滅の恋人への手紙」より(2)
・#05・ベートーベンの「不滅の恋人への手紙」より(1)
・#04・バッハ「トッカータとフーガ」二短調
・#03・「ウイリアム・テル序曲」「セヴィリアの理髪師序曲」とロッシーニ
・#02・寅さんと島崎藤村とドビュッシー
・#01・バッハ「ゴールドベルグ変奏曲」
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