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　 クラシック炉辺夜話      　　　2007/10/01（毎月１・１５日発行)　　　 
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　特攻隊員とクラシック　２

  前回号は、音楽評論家志鳥栄八郎さんの知人で熊本市の外科医師だった竹内
さんの特攻隊員とクラシックにまつわるエピソードを紹介した。今回はその竹
内さんの友人の上村健一の話である。

　上村さんは熊本市役所に勤務していて、その当時は健軍飛行場で陸軍の特攻
隊員の世話をしていた。上村さんも竹内さん同様、大のレコードファンだった。
それで在庫のレコードをかわるがわる健軍飛行場に持って行き、毎夜のように
レコードコンサートを催したという。明日は死んで行く人たちに音楽を聴かせ
たい慰めたいという思いだった。

　上村さんの述懐によると、一番演奏回数が多かったのはモーツアルトだった
とか。志鳥さんはベートーヴェンではないか、ベートーヴェンの《第五》でも
聴いてという心情ではなかったかと想像したというが、リクエストの一番多か
ったのはモーツアルトだった。その次がベートーヴェン、それからシューベル
トそんな順番だった、志鳥さんは言う、これが特攻隊員の死に行く直前の心境
それを物語っているのではないだろうかと...。

　モーツアルトの音楽は純粋ですべてをそっと包み込む、それが死地に赴く前
の彼らの気持ちに合っていたということだろう。志鳥さんは続ける、−−結局、
もう死のうという人たちにとって哲学的思考などというものは必要なかった、
ベートーヴェンの音楽のような深刻な音楽を聴いて、どうのこうのなどいうこ
とはなくなっていたのである、つまり、モーツアルトやシューベルトのような
純粋で清らかな音楽を聴いて、素直な気持ちで”死出の旅”に立っていったの
だろうと.....。

　ベートーヴェン党の私には、ベートーヴェンの音楽はもっぱら深刻で純粋で
はないといわれるのは大いに困るが、隊員たちの心境はじゅうぶんにわかるよ
うな気がする。確かにモーツアルトの音楽は、時代を超えて天上的な純粋さ、
美しさに満ち、多くの人に心安らかさと慰めを与えるものだろう。
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