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アンクルのクラシック夜話 2005/05/15(毎月1・15日発行)
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モーツアルトの子守歌
モーツアルトの子守歌というと、ああ、あの「眠れよい子や〜、庭や牧場に
〜」という堀内敬三が訳詞した歌詞と節が口から自然に出て来る人も多かろう。
日本でも大正時代末期から歌い継がれてきた名曲だが、映画「野ばら」の中で、
ウイーン少年合唱団が、清澄なボーイソプラノを聴かせた名場面を想起する人も
いよう。
とにかくシューベルトなど他の子守唄とともに世界中で広く愛され親しまれい
る曲である。ところがこの曲、肝心の作曲者が実はモーツアルトではないようで、
この事実は、作曲者のエピソードなどを紹介する本などでも紹介されて、今では
広く知られていることになっている。ではこの曲はほんとうは誰の作品で、なぜ
モーツアルトの作品と間違えられるようになったのだろうか。
それはおよそこういうことのようだ。もともとモーツアルトの作品は、彼の死
後、それを整理し作曲年代別に番号をつけたルートヴィヒ・ケッヒェル(180
0〜1877)のいわゆるケッヒェル番号によって世界中にあまねく知られるよ
うになったのだが、その中にもこの子守歌はK250として収められた。
ところが19世紀終わりから20世紀初め頃、ハンブルグの図書館からこの曲
の草稿と目されるものが発見され、そこには「ゴッターの子守歌。フリース作、
1796年」とあったことから、本当の作曲者はベルンハルト・フリース作(1
770〜?)とわかったのである。
フリースはベルリンの医師・医学博士で、アマチャーではあった熱心な音楽愛
好家でモーツアルトの大ファンだったようである。F・W・ゴッター(1746
〜1797も音楽好きな詩人だったらしい。ケッヒェルは、作曲時期をモーツア
ルト24歳の1780年頃と推定したが、ゴッター&フリースの草稿の刊行年か
ら、モーツアルトの亡くなった後の1796年前後だろうとされる。
ケッヒェルはなぜモーツアルトの作品と間違えたのだろうか。それはモーツア
ルトが死んだとき、どういうわけかこの曲の楽譜が妻のコンスタンツェの傍にあ
った、そして、それをコンスタンツェの再婚相手のデンマークの外交官ニコラウ
ス・ニッセンが、1828年に「モーツアルト伝」を刊行した際、付録として歌
詞・楽譜とも載せたというのである。また、1877年権威あるブライト・コッ
プフ・ウント・ヘルテル社が、「モーツアルト作品全集」を刊行した際にも、一
部疑義があったものの、修正して組み込んでしまったことなどから、長い間贋作
のまま通用してしまうことになったのである。
事実が判明したあとでも、広く深く「モーツアルトの子守歌」で浸透している
ので、いまさら題名を変えるのもなじまないので、誤ったままの名称で呼ばれて
いるとか。
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