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  アンクルのクラシック夜話         2004/01/01(毎月1・15日発行)    
                                         uncletell@cool.ne.jp 
   
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を愛読いただきありがとうございました。本年もよろしくお願いいたします。
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   ベートーベンと女性たち4
  ドロテア・フォン・エルトマン夫人


  現在、ベートーベンの不滅の恋人と目されるアントーニア・ブレンターノは
ベートーベンが《慰めの音楽》を弾いて聴かせたことが知られているが、ドロ
テア・フォン・エルトマン男爵夫人も、ベートーベンが《慰めの音楽》を弾い
て聴かせた数少ない女性の友人の一人という。
 本で見るドロテア夫人の肖像は、実に可愛く、魅惑いっぱいの女性である。
写真のない時代の肖像画なのでのどのくらい実像に近いかはわからないが、恐
らくベートーベンと交際のあった女性でこれほど魅力的に見える女性は他にい
なかったのではと思ってしまう。
 彼女はオフェンバッハの工業資産家の娘だったが、1798年に17歳でオー
ストリアの陸軍士官フォン・エルトマン男爵と結婚。早い時期からベートーベン
の弟子であり、ベートーベンのピアノ曲の演奏にかけては、その演奏技術も解釈
についても、当時右に出る者がいなかったとされる。若いときからすでに大家の
風格があったいい、「彼女のひとつひとつの指の先で、一つの魂がうたっていた
。」とその演奏にすっかり魅了されたライヒャルトという人の話も評伝には紹介
されている。
 ベートーベンもその演奏にはたいへん満足し、ときには驚嘆したようだ。そし
て彼女を「親愛な、貴重なドロテア・ツェツィーリア」とよんで愛した。ツェツ
ィーリアとは音楽の守護聖女のことである。そのことばにふさわしく彼女は気高
く、美しい精神が満ちている面差しをしていた。ドロテアの肖像画からもそれは
じゅうぶんに伺える。彼女が好んで弾いたのは、作品27−2の「ソナタ」(月
光)、作品90の「ソナタ」、作品70の「三重奏」、そして作品101のソナ
タ、この曲は、「いく度となく、あなたのためにと思って作られたこの曲をお受
け下さい。」という手紙とともに1817年に彼女に捧げられれいる。
 1831年、若いメンデルスゾーンが1820年から夫に従ってミラノに移り
住んでいた彼女に会った。ベートーベンは4年前の1827年に亡くなってい
る。50歳になっていた夫人は、相変わらず感動的にベートーベンを弾いてみせ
た。そして夫妻でかわるがわるベートーベンの思い出話しをするのを喜びとして
いたという。
 メンデルスゾーンはその時聴いた思い出話のエピソードを書き残している。
 それは、末の子どもをなくして悲嘆の日々を過ごしていた時、夫人はベートー
ベンから招待を受けた。訪ねて行くと、ベートーベンはピアノの前に座り、ぽつ
りと..。「さあ、ごいっしょに音楽でお話しましょう。」そして1時間あまり
弾き続け、「私にすべてを語り、すべてを与え、最後には慰めを与えてくれたの
です。」と夫人は語ったのだという。
 ベートーベン研究家の青木やよいさんはいう。−−ベートーベンは、一方では
恋多き男ではあったが、他方では音楽の力によって人の魂の聖堂を開き、そこに
慰めの香油をささげることのできる人でもあるのだ。−−と。
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