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  アンクルのクラシック夜話07       2000/09/08(毎金曜日発行)   
                       uncletell@lycos.ne.jp
 
  クラシックの音楽家や作品のエピソードを中心に読みものとしても
  ポピュラーな話題をお送りします
   
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 ベートーベンの「不滅の恋人への手紙」より(3)
 
 ベートーベンは生涯何度か恋をしたが、この不滅の恋人との恋愛が、最大に
して最も真摯な(といういい方も少し変ではあるが)そして最後のものだった
と考えられる。
 手紙の内容を考察すると、何より一方通行的な恋の多かったべートーベンで
はあるが、相思相愛の関係だったことが伺える。
 最も中にはこの手紙がベートーベンの手元に残っていたことからも、ハイリ
ゲンシュタットの遺書のように、自分の心の記録、激白ではなかったかという
人もいる。それにしては書いてある内容がリアルすぎるが。いずれにしても残
っているのはベートーベンの手紙だけ。
 手紙は文面の状況を考えると、投函はされ何らかの理由でベートーベンに返
されたとする方が自然なようである。
 
 1812年の時点で、不滅の恋人がアントーニア・ブレンターノでも、また
ヨゼフィーネ・シュタッケルベルクだとしても両方とも人妻。その意味で現代
風にいえば不倫の恋ということになるのだが。
 ただ、ベートーベンはヨゼフィーネとは彼女がダイム未亡人だった1804
年から1807年ごろ恋仲であり、有名な13通のはっきりした恋文も発見さ
れている。ヨゼフィーネはベートーベンのあまりの激しさに辟易したか、自分
の子供の教育を考え、ベートーベンから遠ざかりシュッタケルベルク男爵と結
婚してしまう。
 その後、まもなくベートーベンは、夫と別居していたマリー・エルデーディ
伯爵夫人の家に住んだり、まだ10代のテレーゼ・マルファッティに求婚した
り、好奇心いっぱいに瞳をキラキラさせ、単身たずねてきたベッティーナ・ブ
レンターノと意気投合したりしているから、いつものとおり立ち直りは早かっ
たのだろう。
 ベッティーナはベートーベンとゲーテとを行き会わせたことでも有名だが、
ベッティーナはアントーニア・ブレンタ−ノの義妹だから、その関係でベート
ーベンと知り合ったのだろうと思われる。
 アントーニア・ブレンターノとの恋の不成就は、ベートーベンに大きな打撃
を与えた。それはそれまでのいくつかの恋の失恋とは比べものにならないほど
大きかった。
 メイナード・ソロモンという研究者によれば、アントニーニア・ブレンター
ノは、ベートーベンの生涯において、彼女だけが彼を、男として全的に受け入
れた唯一な女性だという。ベートーベンの方でも、出会ってから五年以上経っ
た後も、アントーニアだけが「唯一の女性」とよぶにたる最初にして最後の女
性だったということのようだ。
 アントーニアは、優雅な気品と繊細な知性のほかに情熱的な行動力に富む女
性だったらしい。彼女はウイーンの貴族、ヨーハン・ビルケンシュトック伯爵
の一人娘で、18歳の時、15歳も年が違うフランクフルトの実業家フランツ
・ブレンターノに熱心に求婚され、1798年父伯爵の強いすすめにも逆らえ
ず結婚。
 伯爵家の令嬢として世の中のことは何もわからないまま、大家族で使用人も
多い、いわば商家のごりょうさんかおかみさんになったという状態。それまで
とは価値感も異った世界、異文化の中に一人投げ込まれた感じだったろう。
 夫は仕事に昼夜忙しく、しかも彼女はその後11年で五児を出産。1809
年、父の重い病の知らせに子供を連れウイーンに帰り、父の死後もアントーニ
アはウイーンを動かなかった。長年の疎外感やストレス、心身ともに疲れ病ん
でいたのだろう。
 妻の後を追ってきた夫のフランツは、ウイーンに支店を開設し、夫妻はその
後3年ウイーンに留まった。ベートーベンはブレンターノ家と親類つきあい同
然の賓客であり、夫婦の友人だった。
 病臥しているブレンターノの控えの間のピアノの前にだまって座り、こころ
を込めてピアノを演奏して帰ることが何週間もあったとされる。
 文献によると、ベートーベンは、1815か17年頃まで、不滅の恋人とイ
ギリスで一緒に暮らす夢をどうも捨て切れなかったようである。 
 
 ベートーベンの最後のピアノソナタ第30・31・32番(作品109、1
10、111)をロマン・ローランは、ブレンターノのソナタと呼んだ。ベー
トーベンがこの3曲をすべてブレンターノ家のアントーニアとその娘のマクシ
ミリアーネにささげようとした形跡があるということのようである。
 そしてベ−ト−ベン研究者の青木やよいさんは、この3曲をブレンターノへ
の追憶の悲歌だといっている。
 なお、ベートーベンが正式にアントーニア・ブレンターノに献呈した曲は、
「ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲」である。
                    UNCLE TELL
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 ベ−ト−ベンの死後、箪笥の秘密の引き出しから出て2枚の細密画は、当初
ジュリエッタ・グイチャルディとマリー・エルデーディ夫人とされていたが、
現在では1枚はエルデーディ夫人ではなく、ほぼアントーニア・ブレンタ−ノ
という。
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 禁欲的で失恋を繰り返していた悲劇の楽聖、聴覚の異常と貧困、たびかさな
る不幸と敢然と闘いながら不朽の芸術を残した...。いわゆるベートベンの
神格化、神話化。
 実際のベートーベンはどうだったのか。確か結婚はしなかったが、恋でもひ
ょっとしてチャンピオンではなかったか? 多分、ボン時代の初恋の相手ロー
ルヘンことエオノーレ・ブロイニングから、1816,7年頃、恋の時代を過
ぎたベートーベンの身近にいて、ベ−ト−ベンに好意を持ったファンニー・ジ
ャンタナジオ・デル・リオまで、こころの友ともいうべきマリー・エルデーデ
ィ、ドロティア・エルトマン、そしてベッティーナ・ブレンターノを含めて、
ベートーベンと恋愛的雰囲気をもった交際をした女性は20人近くにもなるの
では..。
 ベートーベンの方から結婚の約束を破棄したというテレーゼ・ブルンスヴィ
ックのように生涯、ベートーベンを思い独身を通した女性もいるのだ。
 不滅の恋人とのことも、ヨゼフィーネのことも露見すれば大スキャンダルに
なったかもしれないが、ベートーベンとかかわりを持った女性たちはみな一様
に沈黙を守ったといわれる。
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 ベートーベン 不滅の恋人への手紙全文を紹介(ホームページ、バッハなひ
ととき より)
 http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Kouen/4324/beet.html
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